三十路からのデスマーチ

何気ない日常がもしかしたら誰かの役に立つかもしれない。

良質なラブストーリー「ザ・スイッチ」

日本では、田舎の女子高生と都会の男子高生が入れ替わる「君の名は」という映画が大ヒットしました。

しかし、それよりもずっと前に、アメリカではしょうもない子悪党のおっさんとキラキラのスクールカースト最上位ギャルが入れ替わるホットチックという映画があったんです。

良かったです。

とっても良かったです。

小汚いおっさんがギャルを演じている姿が。

やだ!汚い!臭い!とムダ毛を抜いたり消臭スプレーをかけまくるおっさん(JK)

 

そんなアメリカで今度は殺人鬼のおっさんとさえない女子高生が「あたしたち」「入れ替わってる!?」と前前前世が流れ出しそうなハートフルな映画が公開されました。

それが「ザ・スイッチ」


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いやいや、入れ替わった殺人鬼がJKのクラスメイトを惨殺しまくる映画じゃないの?

 

そう思ったのですが、観終わった後の爽快感は、ラーメンと餃子とチャーハンと杏仁豆腐の贅沢セットをふるまわれたような満足感がありました。

 

人は殺されるのですが、ミリーの複雑な家庭環境と、彼女の恋物語と、学校の頼もしいいかした友人たちと、スラッシャー要素がどれも殺し合わず混ざり合って最高の出来栄えなのです。

 

主人公のミリーは内気な女の子。父を亡くしたばかりの母親はキッチンドランカー、姉は彼女とは対照的な、強い女性で警察官。

彼女の友達は「お母さんを大切にするあなたも好きだけど、もっと自分のために生きて」と否定せず、けれどミリーが家族の犠牲になることを心配しています。

しかしクラスメートは彼女をからかったり、いじめたり、学校の先生も彼女に対してひどい態度をとったりします。

 

そんな彼女がある夜、殺人鬼に短剣で刺されたことで殺人鬼と魂が入れ替わります。

そう、アメリカが大好きなアステカの呪いです。

目が覚めたミリーは仰天。声も変だし鏡をみたら屈強なおっさんの姿をしているし、入って来た薬物中毒者に「私、160cmの女子でしょ? 」と尋ねるも「俺も女子になりたいから薬をくれ。」と話しにならないしまつ。

一方その頃、ミリーの姿をした殺人鬼はミリーのクローゼットにある服は趣味に合わないらしく、姉のクローゼットに入った赤いジャケットを手に取り、「俺が考える最高にイカした金髪JK」としてお化粧もばっちり決めて学校に行くのです。

ミリーは自分の身体の大きさに慣れず、しかしながらもそのみなぎる力のすごさに驚きつつ、いじめっ子をいじめ返して二度と弱いものいじめをしないように約束を取り付けたり、それはそれとして24時間以内にもう一度殺人鬼を短剣で刺さないと二度と元の身体に戻れないので、えらいこっちゃとわちゃわちゃするのです。

 

君の名はでは、JKと入れ替わったDKは制服で乗り切りましたが、ミリーの学校は私服。いつもは地味な姿をしている彼女が、顔を出したポニーテールで真っ赤な口紅を塗り、赤いレザーのジャケットを付けて堂々と歩く姿に、同じ学校の男子は唖然と見とれるのです。

あの子は地味だけど俺だけがその可愛さに気づいている。

そう男子に勝手に思われてそうなランキングがあればぶっちぎりで上位に食い込むミリーが、殺人鬼に襲われた翌日に今までの地味な、ファッションセンターしま〇らで買ってそうな服から、堂々とした服とメイクでやってきたのです。

いや、俺は前の方が好きだったと、早口で言う男子もいるでしょうが、殺人鬼の考えた最高にイカしたJKのミリーは芋臭い男子高校生にはまぶしすぎるのです。

 

実は私はこの映画を観る前に一つ気になることがありました。

この作品は、果たして殺人鬼と女子が入れ替わるはちゃめちゃをどう調理してくれるのか、ということです。

 

過去、おっさんとJKが入れ替わったホット・チックでは、見た目はおっさんだけども、友達とガールズトークしたり、被り物をしてチアリーダーをしたりと、おっさんだけど心はJkだということを余すことなく発揮してくれました。

 

ザ・スイッチはどうか。

 

ある意味、ホット・チックを越えたと私は思いました。

ホット・チックでは、JKとおっさんが入れ替わったことを「笑い」として全振りしていました。

恋人はおっさんの外見をした主人公を受け入れる方向にはならなかったのです。

しかし、ザ・スイッチでは、主人公が片思いしていたイケメンに、こんな見た目だけど私はミリーなのと説得して信じてもらい、二人は両片思いだったことが発覚します。

はからずとも二人きりになってしまったときに、イケメンの方から距離を縮めてくるのです。

二人は狭い車の後部座席でぎゅうぎゅうになりながら(屈強でガタイのいい殺人鬼なので)、最高の雰囲気になり、イケメンからキスを迫るのですが、ミリーは自分の手の方が彼の顔よりも大きいことに気づき、待ってほしいのと言って、彼女の気持ちを受け入れたイケメンは肩を抱いて、とても甘酸っぱくも爽やかなラブシーンになっているのです。

 

このシーンを観た瞬間、私は心の中でスタンディングしこぶしを振りかざして雄たけびを上げました。

 

イケメンDK×屈強な殺人鬼のおっさんという組み合わせに興奮したのではありません(していないとは言っていない)。

見た目が変わっても彼にとってはずっと片思いをしていた女の子なのです。

屈強な殺人鬼の中にある、彼の大切な女の子を、魂ごと愛しているのです。

そして、心の準備ができていない主人公の肩をそっと抱きしめる。

 

私は今新世紀のラブストーリーを見ているのだと、興奮のあまり血沸き肉躍りました。

 

おっさんとJKが入れ替わっていることをただ笑いとして消化するのではなく、そのなかに外見に左右されない、真実の愛をぶっこんでくるなんて誰が予想できたでしょう。

 

ザ・スイッチでは、入れ替わったことによりミリーが男の腕力を体感して力に目覚めたり、逆に殺人鬼が華奢な女子高生の身体を忌々しがったりという、入れ替わったからこそのパワーバランスが描かれたりと、ジェンダーを意識した造りになっています。

見た目がおっさんのギャルを面白がるだけではなく、そこにジェンダーをさりげなくもりこんでいます。

そして、クライマックスに向けてますスピード感と予想の付かない展開。

 

強さとはなにか、真実の愛とはなにかを問いかける最高の作品、ザ・スイッチ。

おっさんのJKが観たい方も、殺人鬼とのガチンコが観たい方にもおすすめの作品です。

 

でも、おっさんのJKは観たいけどもっとコメディがいいな、と思う方には文句なしにホット・チックがおすすめなのでぜひ観てください。

おっさんのJKがパジャマパーティーしたりチアリーダーしたりしたり、プロムに出たり、学園生活を満喫していますので。 

 

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