三十路からのデスマーチ

何気ない日常がもしかしたら誰かの役に立つかもしれない。

偶然運転を任せたドライバーがSSRだった「囚人ディリ」

囚人ディリ。2019年のインドで作られたタミル語アクションスリラー映画です。

タイトルから囚人が出てくるんだろうな、脱獄ものかな、囚人のディリさんという人が出てくるんだろうな、とその程度の気持ちで見る気になったのは、インド映画ファンの方々が「囚人ディリが日本の劇場で観れるぞー!!」と沸き立っていたからです。

インド映画はRRRとバーフバリとK.G.F1.2とバンバンくらいしかまだ観ていない私に果たしてついていけるのか、と心配になりましたが杞憂でした。

というのが、観た時がいわゆる応援上映型式だったからです。

しかもチェンナイスタイルという声出しNGで太鼓や鈴、タンバリン等の鳴り物はOKというスタイルだったので注目すべき俳優さんが登場した瞬間に盛大に周りから音が鳴るので、「この人は一見さえないおじさんに見えるけど要チェックな人なんだな」と心構えができたのです。

 

囚人ディリは、孤児院から始まります。

身寄りのない少女アムダちゃんが孤児院の人に呼ばれて、明日貴方に会いにお客さんが来ますよと伝えられます。

両親はおらず、引き取ってくれる親戚もないアダムちゃん。誰だろうと思いながらお友達に「余所行きの服を用意した方がいいよ」と勧められて、可愛いワンピースを用意します。

場面は変わり、マフィアや麻薬を押収する刑事の場面に代わります。

そしてさらに、麻薬をかすめ取られて激オコなマフィアの場面に代わります。

中々出てこない囚人ディリさん。

大量に麻薬を押収してお祝いムードの警察官たち。おいしい料理を宅配でたのみ、お酒も飲み、どんちゃん騒ぎです。しかしそこに交じっていたマフィアのスパイがお酒に薬物を混入。腕を負傷し痛み止めを飲んでいたビジョイ警部のみ。

警察官たちがどんちゃん騒ぎで酒を飲んで昏倒などマスコミに知られてはいけないと警察長官の「誰にも知られないように事態を処理するように」という命令を受けてビジョイ警部はどうしようと焦ります。

ビリヤニ店のトラックに警官を積み込み、病院に行くにはどうしたらいいか。ドライバーが必要です。

そこではっと気づくのです。

うろついていた怪しい男が警察のジープにつながれているのです。

ビジョイ警部が「運転はできるのか」ときけば「できる」と答えたその男こそ、本作のタイトルにもあるディリでした。

鳴り響くタンバリンの音と共に登場したディリを見て、囚人じゃない!と思わず突っ込まざるを得ませんでした。

厳密に言うとディリは元囚人。十年の刑期を終えて急いでいかなければならない場所があるのです。

そう、孤児院にいる自分の娘アムダちゃんを迎えに行かなければいけないのです。

酔っぱらった警察を運ぶなんてことにかまっていられないのですが、ビジョイ警部も崖っぷち状態。お前をまた逮捕してもいいんだぞと脅して、なんとか運転をしてもらうことになりました。

余っていたチキンビリヤニをディリがむしゃむしゃ食べる飯テロシーンをはさみ、ディリを運転手に、ビリヤニ店の青年カマチをカーナビに、ビジョイ警部補は「誰にも知られないように事態を処理する」ために警官を積んで病院に向かいます。

一方その頃、麻薬を押収した警察本部にはマフィアが向かっていました。

ビジョイ警部がマフィアが来るから近隣の警察を呼んで迎え撃つように頼んでいたのに、応援を呼ぶことができなかった警察本部には留置所に入っている犯罪者、飲酒運転で取り調べ中の大学生たちとその恋人を迎えに来た女子大生、そして転勤したばかりで事情もよくわからないナポレオン巡査。
果たしてこの地獄の様な一夜を彼らは乗り切れるのか。

そしてアムダちゃんはお父さんに会えるのか。

 

本作、主人公のディリが寡黙不愛想で最初は渋々嫌々ハンドルを握っているのですが、誰が会いに来るのか気になったアムダちゃんから電話があった瞬間、父親の顔になります。

そして娘に会わなければならないという気持ちバフがかかると、ルンギをひるがえしながらマフィアたちをバッタバッタとなぎ倒す戦士になるのです。

マフィアの集団に対して恐れることなく戦うディリを見て、ビジョイ警部もカマチも、そして初見の観客も「この男、何者なんだ」と恐れおののくわけです。

マフィアにとっては得体のしれない怪物のようなディリですが、娘の前だと一人の父親に戻ります。

マフィアの襲撃で電話を中断させられ、かけなおすも孤児院のスタッフさんに怒られる姿が本当に弱弱しい。頼み込んで写真を送ってもらい、娘の写真を見て泣きながら笑う彼が、どれほど娘が大事か伝わってきます。

そんなディリと同時に進行していくのが、警察本部で籠城戦を強いられたナポレオンたちの物語。彼は一見冴えないおじさんに見えますが、大学生を率いてマフィアの軍団と戦わなくてはいけない絶望的な状況で、最後まで心折れずに戦い抜くのです。

この映画、一本でカーアクションものと、籠城戦ものが同時進行していくのです。

どちらも一本の映画として成立するくらい面白いのに、贅沢すぎます。

マフィアと警察のどんぱちものに、巻き込まれた一般人、そして父と娘のドラマの入った本作。ルンギの翻るアクションがあまりにもかっこよすぎて、公開時期の短さ、劇場の少なさがもったいなさすぎる作品でした。