三十路からのデスマーチ

何気ない日常がもしかしたら誰かの役に立つかもしれない。

ゴジラVS戦後日本「ゴジラ-1.0」

シン・ゴジラという高い高いハードルに挑む山崎貴監督を心配する声が多かった「ゴジラ-1.0」

シンの次がまさかのマイナスワン。原点回帰としてオリジンやゼロをつけるシリーズは多いけども、それらを振り切りマイナスワン。

しかし作品はマイナスワンどころか歴代ゴジラを超えたという絶賛の評価をつけた人の多い名作です。

 

本作は1945年の日本から始まります。

主人公敷島は特攻隊隊員。飛行機が故障してしまったため急遽飛行機の整備工場のある島に着陸します。橘さんという整備士に「どこも壊れてないっぽいんですけど? 」と言われるも、他の整備士は日本の敗戦を察して、敷島を責める雰囲気はありません。

実際、飛行機の故障で戻ってきた特攻隊の方はいるのですが、彼らの中にはひどく責められたという話もあります。

敷島がやってきたその島には伝承がありました。

深海魚の打ちあがる日は、「ゴジラ」という怪物がやってくると。

案の定。その夜ゴジラが上陸してきました。しかしそのサイズはなんだか小ぶり。

ティラノサウルスを一回り大きくしたようなサイズです。

戦車でなら対抗できそうなサイズですが零戦だとちょっと厳しいサイズ。しかし人間なら命を失うレベル。

橘さんからゴジラを撃てと言われますが、敷島は恐怖のあまり撃つことができませんでした。

橘さんは行けると思ってますけど、観客は「いや無理だよ!」と感じたでしょう。撃ったところで怒ったゴジラに頭を噛まれて大海原に放り投げられるのが関の山ですよ。

からくもゴジラの襲撃から生き延びた敷島。這う這うの体で東京に帰ります。

しかし彼の家は空襲で焼け、家族も消息不明。お向かいに住んでいる安藤サクラさん演じる澄子さんに「なんでお前が生きて戻ってきたんだよ」と詰られる始末。

罪悪感いっぱいで戻ってきた敷島に未来はあるのか。暗澹たる気持ちを観客も味わっていたその時、本作のヒロイン浜辺美波さん演じる盗人に赤ちゃんを託されます。

じつはこの赤ちゃん、盗人もとい典子さんが縁もゆかりもない死にかけた母親から託された女の子でした。人の好さそうな敷島の家に上がり込んだ典子さんは、赤ちゃんのアキコちゃんと一緒にやっと安らかな眠りにつくのでした。

追い出すこともできず、翌朝澄子さんにエンカウントしてしまい、偽善者となじられる敷島。しかし、敷島の曇らせ要因かと思われた澄子さんは母乳がないと知るやいなや大事にとっていた白米を二人に渡します。大人は何食っても生きていけるんだから、これでアキコちゃんのために粉ミルクと交換してこい、という彼女のツンからはみ出た大きなデレ(愛)なのです。

澄子さんは三人子供を育てたと言います。彼女はこのとっておきの白米を、子供たちに食べさせてあげたかったのかもしれません。

しかし彼女は、憎しみすら抱いている特攻隊員の生き残りの家に身を寄せる赤ちゃんをほっておけなかったのです。ここで澄子さんからの曇らせは完全に終了し、後はこの家族を見守り支援してくれる優しいご近所さんポジになります。

さすが三丁目の夕日で日本中に感動を与えた監督。

ゴジラとかいいからこの人たちが戦後の動乱に巻き込まれつつもたくましく幸せに生きている姿を観たい、という気持ちになってしまったとき、敷島は仕事を見つけて帰ってきます。

米国がばらまいた魚雷除去の仕事。大金がもらえますが中々に危険です。

典子さんはそんな危険な仕事やめてくださいと言いますが、敷島は、この二人を養うということに生きがいを感じているのです。なんとか典子さんを説得して仕事に向かいます。

仕事は順調で同僚たちと和気あいあいと進み、親しくなった同僚たちを家に招き食事をするまでの仲になります。

そんな日常がある日突然壊れ、ゴジラとの再会が訪れるとは知らずに。

前半の戦後人間パートから打って変わって襲い掛かってくる災難に、最初のおどおどしていた表情が変わり、ゴジラという神にも等しい巨災に挑む敷島は「神殺し」を決意した主人公へと変貌します。

神木隆之介くんから神木隆之介さんに変わったような面構え。

一人の人間の顔つきをここまで変えてしまうほど、ゴジラとは恐ろしい厄災なのだとスクリーンの前で観客たちはぶるぶる震えます。

さて本作、カラーを抜いてマイナスカラーというモノクロ版も公開されました。

どっちから見たほうがいいのか。

観賞済の方は「モノクロの方が怖い」とのことです。

え……? カラーでもガンギマリで殺意を向けてくるのに?

真っ青になって隆起する背びれが恐ろしいほど絶望感を伴っているのに?

まだ恐怖の伸びしろがあるの?

個人の感想はさておき、マイナスカラーもとっても好評。

ゴジラ史上最もゴジラの顔面に近づき突っ込んでいくのがまさかの神木隆之介という日本画誇る、最古にして最高の怪獣映画。なるべく大きなスクリーンで恐怖を味わっていただくのがおすすめです。