三十路からのデスマーチ

何気ない日常がもしかしたら誰かの役に立つかもしれない。

テレビとベッドを天秤にかけた話

今週のお題「間取り」

私が初めて一人暮らしをした時、何より重視したのは風呂トイレ別ということでした。

何故なら私はずぼらおぶずぼら。

トイレと風呂が一緒という環境を清潔に保てる自身はありませんでした。

「シャワーを浴びている間にトイレ掃除ができるので、ユニットバスはずぼらな人ほどおすすめです!」

という記事を見た時は正気を疑いました。

その部屋は、風呂トイレ別の縦長の部屋で、ベランダからはオーシャンビューと街を一望できる絶景がありました。

山の上に建っていましたから。

不動産屋さんで、そのマンションを紹介されたとあるご家族が「あそこ人が住んでいるんですか?」と言いましたが、私は聞かないふりをしました。

 

それから十年以上経ち、私は再び一人暮らしの準備を始めました。

ピザのような鋭角な部屋、風呂なしトイレ共同一階銭湯な部屋、コンクリート打ちっぱなしの部屋、世の中には家賃の低さで競えば、様々な部屋が出てきます。

風呂トイレ別で検索すると、ほぼかならず風呂、トイレなしの間取りを案内されます。

いやそういうことじゃねぇんだわと思いながら、お賃金と賃貸サイトをにらめっこしながら、一つの部屋を見つけました。

 その部屋は風呂トイレ別、しかも台所と寝室が別で庭付です。

 インターネットあり、駅、スーパーから徒歩7分、なかなかの好物件です。

 私はさっそく不動産屋さんに内見をお願いし、その部屋をみせてもらいました。

 良い部屋だ、しかし他の部屋も見て見ねば、と思った私に、不動産屋さんが囁きました。

「ここ、地盤がしっかりしているんですよ。」

 地盤がしっかりしている。地震大国のこの国でこれほど魅力的な言葉はあるでしょうか。

 河川も近くになく、百年以上前から建つ神社が存在していますし、きらきらした名前でもない地名。

 こんな良い場所、逃せばもう見つからないかもしれません。

 私は、考えさせてくださいと言ったその日の夕方に、ここにしますと連絡しました。

 収納スペースあり、風呂トイレ別、屋内に洗濯機もあり物干し竿をひっかけるフックがあります。

 まさに一人暮らしのためのような部屋です。

 ですが、暮して初めて気づきました。

 この部屋は、テレビの設置がしづらいのです。

 現在のテレビはケーブルが必要です。この部屋のケーブルが設置されている場所にテレビを置くと、ベッドが置けなくなるのです。

 じゃあベッドを逆の壁にと設置すると、今度はクローゼットがふさがるのです。じゃあ入り口をふさぐか、ベランダをふさぐか、というにっちもさっちもいかない状態。

 この問題を解決する方法は

 ①長いケーブルを買う

 ②テレビを置ける立派なベッドを買う

 ③引っ越す

 この三つに絞られました。

 こうして私はテレビを諦めました。

 NHKの集金の人がやってきても「じゃあなんとかしてくれよ!いい案をおしえてくれよ!私だって大河ドラマみたいよぉぉぉ!!」と泣きつくと、気の毒そうな顔で帰って行ってしまいます。

 テレビがないということは、SNSで「金ローラピュタだからみんなでバルスって言おうぜ!」という一大イベントに参加することもできません。今週の大河の話題についていけません。年末の特番も観れません。

 おかげでモルカーもテレビ放送後のやや遅れたネット配信を見る前にネタバレを踏んで「ぬぁぁん!」と朝から叫びました。シン・エヴァのネタバレは踏む前に本編が観れたのにまさかモルカーでやらかすなんて……。

 

 話はずいぶん脱線しましたが、私の部屋はテレビを置くという一点を除けば、最高の正方形間取りでした。

 一点、本当に一点、逆の場所にテレビの配線さえあれば、このまま終の棲家にしたいとも思えるほどの場所でした。

 私のお賃金が上がってもっといいベッドを買えるようになるか、それともお賃金が倍になって引っ越せるようになるまでは、この正方形部屋で観れないテレビ番組に想いを馳せながら生活をしていきます。