日本が誇る漫画・アニメ文化は日本の経済を支えてきました。
しかし、コロナ禍の中、数々のイベント、映画は自粛のため延期になりました。
「三部作の最終章は桜が満開の春に観たかったな……。」
という残念そうな声や
「あの映画公開日決まってないんですけどぉぉぉおおお(汚い高音)」
という悲鳴。
そんなつらい春、夏を越えて、やってきました秋。
コラボ商品が店の記録を塗り替える、日本の経済の柱となった作品、「鬼滅の刃」の劇場版「無限列車編」が公開されました。
されてしまいました。
無限列車編。公開が決まった瞬間、原作ファンが、たしかに劇場向けの尺かもしれないけれども絶対観るけれども、多分三回は観るし4DXとかあったら絶対観るけれども、一人で観る勇気はないから誰か手を繋いで一緒に観て欲しい。という悲鳴に満ち溢れたエピソード。
「幸せが壊れるときはいつも血の匂いがする」
一回しか出てこなかったこの言葉を思い出すエピソード。
もう一週間経っているので、ネタバレが嫌な人はすでに観ているかと思います。
この無限列車編、原作のストーリーをそのまま映画化していますので、ネタバレを危惧するとすればキャラクターの声優です。中の人です。
平面からアニメに変わる時、避けて通れない「声」
イメージと違う、ということもありますが、はまりすぎて呼吸を忘れたという人もいます。
鬼滅の刃はアニメ化する前から人気で、アニメ化した時にはその声優が発表されたときには大盛り上がりした作品です。
主要キャラクターの四人はもちろん、作品中の強者である「柱」という称号をもつキャラクターたちは特番で声優が発表され、ファンは絶叫しました。
雑魚鬼と呼ばれる名もなき鬼、名前があっても1話で大量リストラされた鬼たちの豪華声優陣っぷりに多くの人たちが戦慄しました。
無限列車編では事前に声優が公開されていない主要キャラが四人いたため、ネタバレなしにその新鮮さを味わいたいと劇場に駆けつけたファンが、まさかそんな大御所がここにきて持ってこられるのかと絶句しました。
劇場版であってもファンへのサプライズを失わない素晴らしい作品でした。
原作ファンの私は想像の何倍も良い映画に仕上がったなぁとマスクの中を鼻水と涙でぐしょうしょにしながら思ったのですが、ふと気になったことがあります。
原作読まずに観た人、もしくはこれが初めての鬼滅の刃になった人、最後まで振り落とされずについてきたのだろうかと。
「無限列車編」は鬼滅の刃のアニメ26話の続きです。つまり、見るときは鬼滅の刃27話を観るような心構えでいくのがベターです。
原作を読まずに観ても、26話までの流れを把握していれば
「あの猪……なに? 」→猪に育てられた美少女の顔をした少年です。
「なんで日本人の名前なのに髪の色赤だったり金髪だったりするの?」→雷に打たれたり、お母さんが妊娠中に炎を見ていたからです。
「女の子箱の中と外じゃ大きさ違うんじゃない? 作画ミス? 」→鬼なので身体の大きさを変えられるのです。
と気になって内容に集中できないということもおきません。
なにより、鬼滅の刃がPG12というレーディングになっている意味を理解できるかと思います。
鬼滅の刃の主人公、竈門炭治郎はとても優しく、勤勉な少年です。
女の子が困っていれば、同期であっても叱って止め、無礼な猪には頭突きをし、目上の人であっても間違っていれば意見を言う。弱きに優しく、強きに怖気ない彼の存在は教育に良いのです。
しかし鬼滅の刃そのものは優しいだけの物語ではなく、一話にして主人公の家を血の海にするという惨たらしいシーンがあるのです。
私は小学生の頃、殺人鬼の魂が子供のおもちゃの人形に宿り、殺人を行うホラー映画のポスターが恐ろしくて、一週間ほどうなされていた時期がありました。
無限列車編の鬼は狡猾で、恐ろしいシーンもあります。
とくに作画演出は、気持ち悪くおぞましい肉塊を描くことに定評のあるスタジオ。
恐怖で席を立つお子さんがいても不思議はない作品です。
ファンにとって、鬼滅の刃はとても大切な作品です。しかし、某海賊映画のような爽やかさを求めて映画館にやってきた人に、こんなに怖い作品だとは思わなかったとご意見を送られることはとても悲しいことなのです。いやほんとに。開いた口が塞がらないくらい。
そのため、映画を観る前にはどういう作品なのか、同行者に、自分に適した作品なのか、チケットを買う前に確認してほしいのです。
映画を観に行ったら鬼滅の刃しかなかった、という状況は映画ファンにはとてもつまらない状況だと思います。
私も、よく知らない興味のない映画が一日5分おきにスクリーンすべてで稼働して、観たかった映画が早朝と深夜の回しかなかったら、ご意見カードに文句をかいてしまうかもしれません。
しかしもし、「他にないから観てみるか」と観てみて、面白かったら「興味なかったけどおもしろかった」とSNSやカフェの雑談等で話していただければ、たまたま貴方の隣の席にいるかもしれない、貴方のつぶやきを見るかもしれない私が、にっこりします。
最後に、鬼滅の刃無限列車編は優しいだけの物語ではないし、今回の映画は初めて見る人向けではないし、ちょっとグロテスクだし………すっきりとする終わり方ではないと思います。
しかし、無限列車へには鬼滅の刃の魅力がぎゅっと凝縮されています。
家族を大切にする気持ちと、強く気高い魂と、残酷な展開と、それでも何かを引き渡し受け継ごうとする人のつながり。
そのすべてがつまって、とめどなく押し寄せてくる作品です。