予想以上に人気が出てロングランする映画というのはあります。
インド映画で異例の大ヒットをし、なんやかんやで公開期間が延び、応援上映などで不死鳥のごとく復活する「RRR」が最たる例ですが、公式が思ったよりも人気が出すぎてなかなか上映終了しない映画があります。
特典が付けば満席になり、数々の映画が終了していく中客足が途絶えず上映を続ける映画。公式も予想ができなかった事態に「???」となっている作品。観終わった後、クリームソーダを喫したくなる人が爆増し、喫茶店でも寒い時期にあまり出ないクリームソーダの注文が増えてお店の人が「???」となった作品でもあります。
それが「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」
日本で妖怪というコンテンツをキッズにも楽しめるキャラクターものとして完成させたアニメ作品「ゲゲゲの鬼太郎」の最新シリーズです。
本作のアニメは原作のダークな雰囲気を子供向けにまろやかにした作風が大ヒットし、細かい設定や声優を変えつつ、サザエさん並みにご長寿アニメシリーズとして知られています。
ちなみに私は子供の頃、妖怪人間ベムとゲゲゲの鬼太郎を夕方に観て、冬のピアノ教室帰りの真っ暗になった道が恐ろしく半泣きで帰ったことがあります。
そんな鬼太郎もアニメ六期が作られ、大きなお友達も「猫娘がやたらかわいくなってる」と驚愕させました。
そして満を持して大ヒットコンテンツが、原作者水木しげる生誕百年を記念して生み出したのが本作「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」です。
ポスター見ました?
血まみれの墓石がずらりとならんだ墓地に同じく血まみれの人物二人、そして一切血を浴びていない、おなじみ鬼太郎が佇む不気味なポスター。
映画学校の怪談シリーズもここまで赤くなかったよ?
血まみれのスーツの男「水木」は鬼太郎の原作、墓場鬼太郎では鬼太郎の養父にあたる人物です。
そして着流し姿の長身白髪は「かつての目玉の親父」。……目玉の親父!?
鬼太郎の作品で主人公と切り離すことができない、目玉の親父。鬼太郎の頭に乗って行動し、視聴者の解説役としておなじみの目玉の親父。登場からすでに目玉状態だった彼は、原作ではエジプトのミイラのような包帯ぐるぐる巻きのガタイのいい男の姿をしていましたが、アニメ開始時にはすでに目玉に手足のある状態。お茶碗でお風呂に入り、鬼太郎がいつも敬い大事にしている家族。
そんな目玉の親父が白髪長身着流し姿。しかもCV関俊彦。なんてこったい、日本のアニメ回で最もお風呂シーンを披露してきて何も言われなかった目玉の親父がかつてはこんな造形だったなんて。今後目玉の親父のお風呂シーンを観るときにはどんな気持ちでみればいいのか。
そう不安に駆られてしまう人もいるでしょう。
しかし、それはあくまで、あくまでも、この陰鬱な物語を少しでも受け入れやすくするためのビジュアルなのです。
「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」
公開からすぐさま某SNSでは「これはあかん。」「本物の因習村だ」「横溝正史に出てくる一族。」「子供に安易に見せたらトラウマになる。」「入村20回目」と阿鼻叫喚狂喜乱舞の大騒ぎ。
何が真実かわからない人狼ゲームが始まってしまった本作の原因は、龍賀一族という本作の現況でもあり因習村の原液の存在です。
この一族の物語で小説が書けるレベルで設定も練りこまれています。
中には「ツイッター(現X)を見て言ったから肩透かしをくらったwww」という人もいますがPG12でその期待はあまりにも重い。でも精神的にはPG15レベルのグロさです。
そんなグロい本作を、なんとか飲み込めるようにしているのは主人公、水木の巧みな人物造形にあります。
戦争帰りの野心家喫煙者でありながら、子供の前では煙草をもみ消し、鼻緒の撮れた草履のお嬢さんがいれば膝と肩を貸してあげてまっさらなハンカチを割いて草履をなおし、野心よりも己の善性のままに斧をふるうことのできる男。
なんだこの因習村は、と観客が青ざめる中、斧を振り下ろす水木の爽快なこと。
本作の結末はどこまでも救いはないのですが、それでも、希望を見出せるあたたかな結末に、すごい映画を観た、という満足感で劇場を後にすることができます。
しかし、SNSを見ると「あそこに〇〇が…。」とあり、え? 見逃した!!と劇場にUターンすることになるのです。
まだ来ていない人も勇気を出して入村しませんか?