三十路からのデスマーチ

何気ない日常がもしかしたら誰かの役に立つかもしれない。

白髪で隠れない美貌のヒロイン映画「狗神」

天海祐希セミヌードが観れるということで、当時男子高校生が劇場に駆け付けたという噂のある角川ホラー映画「狗神」。内容は、四国の山間にある集落で暮らす中年女性が新任の若い男性教師と出会ったことにより、その集落で恐ろしいことが起き始めるという官能小説のようなストーリーです。

このヒロインこと、天海祐希が演じる美紀はとても美しいけれど白髪がぽつぽつある女性で、地元の青年に「自分にとってはお祖母ちゃんみたいなもんです。」といわれます。後々わかりますが彼女は集落で疎まれた存在です。何故かというと狗神憑きだから。

この狗神憑きというのは、自分たちに危害を加えた者、自分たちに無礼を働いたものを狗神を遣って殺すことができる、というものです。

そんな恐ろしい一族だと差別するのは大体中年から上の年齢で、若い人たちは「狗神なんかいるわけねぇだろうがよ!!」という意見を持っています。

この作品を天海祐希セミヌード目当てで観に行った男子は「思ったより見えなかった……でもおっぱいはちょっと見れた。」という気持ちで劇場を後にしたことでしょう。

若い男性教師、晃と出会ったことから、美希と集落に異変が起きます。集落の人皆が悪夢を観たり、美希は美しく若返っていきます。

若返ると言っても、白髪交じりの髪をしていた天海祐希が元の天海祐希に戻って眼鏡も外しただけなので、オフの天海祐希か仕事モードの天海祐希くらいの違いしかありません。

だって天海祐希なんですから。

ワンピースで鎌を持ってのしのし歩いている街田しおんも、ヒステリックな演技と山路和弘に甘えるときの演技が色っぽくて良いです。おっぱいを一応見せてくれます。死んでますけど。

この作中では、女性の扱いがひどいです。

こんな集落で生きるなんてまっぴらごめんだと逃げ出したのに連れ戻された美希の母に始まり、子宮筋腫だからと夫が勝手に医師と相談して子宮摘出を決めてしまった百代、夫が飲んだくれで不倫をされている園子。しかも夫はずっと妊娠させた妹に執着していたことがわかります。本当に報われない。

美希は「女が黙って死ぬとでも思ってんのか」と兄の頭を狗神様が入っている壺でかち割りますが、それもっと早くやっておかなきゃいけないやつです。

解ります。

四国の端っこから逃げ出そうと思っても、どこに逃げ出せばいいのかわかりません。なんせ美希の家にはテレビもなく、携帯電話なんてもっとないのです。彼女は飛び立とうとしたときに妊娠し、一緒に逃げようとした男(実兄)は美希を置いて先に逃げていたのです。精も根も尽き果て、「ここならとりあえず家はあるし…。仕事場から見る景色も好きだし……。」と思ってあきらめてしまうのです。耳クソのようなよかった探しを始めるのです。

よぉく解ります。

そして物語はとんでもない方向へと向かっていきます。

個人的にはモノクロのシーンから、炎が立ち上がって色が変わるのは「どやっ。」という監督の顔が浮かびました。

 

最後にこの映画を観終わった時、狗神は果たして本当にいたのか。という微妙さを感じました。

心筋梗塞が重なっただけで、あの黒いもやっとしたのは美希が見ている幻覚にすぎなかったのではないか。

美希が本当に怒りのままに狗神を遣えていたのなら、真っ先に殺したい相手は目の前にいて、ハンドバッグで殴っている場合ではないのでは。

最後に出てきた美希の悪夢を想起させるような演出が、ホラー映画だから一応後味悪くしておこうみたいに見えて……。

原作ではちゃんと(?)ホラー展開になっていたそうなのですが、この映画はド田舎の薄幸美人のドラマに収まってます。

だって天海祐希ですから。

紙すきのシーンも美人なのです。

お母さんだとしても知らずに接してきていたのだからきゅんとする、という気持ちもわかります。

 

物語の結末に向けてのシーンを見て、「あの病院での身内受けトークが伏線だったの!?」と驚いたりします。

若かった美希の姪と美希を慕っていた青年は結ばれているような、これからも大変そうな不穏なラストではありますが、同時にその不穏さは「美希と晃はあの山のどこかで別の形で生きているのでは」とも思わせてくれます。

 

角川ホラーらしい、じっとりねっとりした作品でございました。

 

 

 

※ちょっとネタバレ

映画では美希は母親の霊を降ろせるイタコのような役割をしていたという設定があり、そこは逆に何故美希がこの集落にしばられているのかという説得力がありました。

美希が幻覚や精神分裂によって母親を見たり、演じたりしているのか、本当に母親の霊が見えて降ろしているのかはさておき、そんなやばい身内を外に出すわけにはいかないというのは納得できます。

外に逃げて何か事件が起きたら、集落に残った一族が一層差別や偏見をうけるのです。

狗神が存在しているのか、存在していないのかぼかすことで、「狗神がいることにして誰かで鬱憤を晴らしたい」という集団心理の嫌な感じがリアルでした。

美希一人を殺さず、一族で死ぬことにしたのを決めたのが男だけというのも本当に嫌な感じでしたがリアルでした。

だから逆に、男の誠二が、美希を庇ったり、反対を押し切って助けようとしたりしてくれたので、この物語に希望のようなものが見えて、あまりわるくない後味に仕上がったのかもしれません。