三十路からのデスマーチ

何気ない日常がもしかしたら誰かの役に立つかもしれない。

30年分の狂気「マッドゴッド」

ストップモーションアニメ。

写真を一枚一枚とって重ねて作り上げる動画作品。日本で今一番熱いものはフェルトで作ったキャラクターをストップモーションで撮影したアニメ、プイプイモルカーでしょう。

モルモットと車を足して生まれた可愛らしいキャラクター、モルカーがビルを倒したり、海底トンネルを破壊したりする可愛い作品で、大人から子供まで魅了し、某有名ミステリー作家も自宅で量産するほど。

そんな可愛らしいモルモットアニメを作り上げた監督は、マイリトルゴートという七匹の子ヤギをモチーフにした特濃闇深ホラーアニメを作りました。

そう、ストップモーションとホラーは切っても切れないのです。

映画界のマッドゴッドと言われるフィル・ティペット監督が30年かけて病んだり休んだりして作り上げた作品「マッドゴッド」。

PG12のストップモーションアニメ。

惨憺たる世界をスクリーンいっぱいに魅せられた人たちは口々に「どえらいものを見てしまった……!!」と大なり小なり心に何かをねじ込まれて劇場を後にする作品。

 

マッドゴッドの予告を観て気になった人は、PG12に性的要素が含まれるかどうか気になる人もいるかと思います。

性癖は人それぞれなので、地獄のヘドロをかき混ぜるようなこの作品に性的なものを感じる人はいないとは言い切れませんが、まず普通の人は性的要素を感じることはないと思います。

 

マッドゴッドはセリフがほぼありません。セリフなのか鳴き声なのか効果音なのか、判別付かない音はあります。

生き物と思われるものから聞こえるのは基本的に雄たけびや悲鳴や断末魔です。

ストーリーはなく、地獄で行われる弱肉強食や拷問や解剖やなんか気持ち悪い生き物の排せつ物を何か気持ち悪い生き物なのか機械なのか、人工物なのか有機物なのかわからないものが租借したり、そこからなにか別の生き物なのかそうじゃないのかわからないものが生まれて労働し、事故死し、虐げられ、踏みつぶされる様を眺めるのです。

ダークファンタジーというにはあまりにも陰惨で、ホラーというにはあまりに抑揚がなく、狂人の頭の中がスクリーンに出力されたものを眺めるというのが最も近いです。

アサシンという爆弾を抱えた主人公が、めくるたびに進むたびに崩れていく地図を手に、地獄の下を目指す姿を、眺めます。

その目的は知らされることはありません。

彼の意味は爆弾を置くことなのか、それとも彼自身が解剖されたその中にあるのか。

それすら意味もなく、彼はただ無意味に苦痛を味わい続けるのか。

大多数の人の人生が意味もなく終わるといいます。

一見主人公として物語を進めているように見えるアサシンは、簡単に事故死する労働者のシットマンと大差ないのではないのか。彼が踏みつけて気づきもしなかった小人と同じなのではないか。

マッドゴッドを見に来るのは人生にハッピーなことが少なそうな人たちが多そう(偏見)なので、わが身に起きているように感じる人もいるのではないでしょうか。

 

マッドゴッドは30年かけて作り上げた執念の作品です。

監督は「売れるとか特に考えていない」とコメントしていますが、文化圏の違う日本でも刺さって抜けないファンが続出しています。

おそらく、ほとんどの人は、プイプイと動くモルカーを眺めてほっこりし、時には涙し、時には人間の愚かさに嫌気がさすのでしょう。

しかし中には「マッドゴッド」が必要な人がいるのです。

汚物と腐敗の空気をマスク越しに吸い、岩の裏をひっくり返してわっさぁと出てくる無視やミミズを見ることになんか楽しいものを感じてしまう人がいるのです。

そんな大人気なマッドゴッド。売り切れていたパンフレットの再販が12月24日に決まりました。

マッドゴッドファンには最高のクリスマスプレゼントです。