日本が世界に誇る人気バスケット漫画「SLAM DUNK」。不良だった主人公が好きな女の子の笑顔が見たくてバスケ部に入り、全国制覇を目指すという物語です。
厳しいキャプテン、無表情で美形のライバル、問題児の先輩、元中学生MVPという個性的な仲間たちは主人公と同じく人気があり、相手高校のキャラクターも負けず劣らず人気がありグッズ化され、キーホルダー等カバンにつけていた読者も多いです。
アニメ化もし、オリジナルストーリーで映画化もしました。
そんな SLAM DUNKを令和で映画化するよということになりネットは騒然。
が、その映像があまりにも当時のアニメとかけ離れたものだったことと、声優がテレビアニメと違うということと、制作陣からの「アニメのふざけたノリが嫌だった」的な発言で大炎上。
その燃え方はすさまじく、公開前は期待度が急降下していました。
そう、まるで突然主要キャラの娘であり、主人公の幼馴染というヒロインが突然はえてきた某海賊漫画の映画のように。
そんな「THE FIRST SLAM DUNK」は公開後にはくるりと反応が変わりました。
まるで主人公の幼馴染というヒロインがなんで原作にもいないんだと嘆かれた某海賊漫画の映画のように。
「THE FIRST SLAM DUNK」は漫画がそのまま動き出したような作品です。
原作・脚本・監督を井上雄彦先生が務めるため、原作ファンには垂涎もの。
本作は主人公の最後の戦い、山王戦を、湘北メンバーの2年生宮城リョータを主人公に描いています。
桜木花道ではないのです。
宮城リョータ。2年生のPG。180cmを超える選手の多い湘北のメンバーの中で168cmと最も小柄ですが、スピードとテクニックに秀で、湘北には欠かせない存在です。
美人マネージャーの彩子に片思いをしていて、試合中も彼女の声援でよそ見をしながら絶妙なパスを出す描写があります。
そんな彼が令和の SLAM DUNKでは主人公!
主人公になった彼には、平成の時とは違う物語が添えられます。
リョータには三つ年上の兄がいました。バスケを教える兄は小さなリョータにも手を抜かず、けれどあきらめず攻めてくる弟をよくやったとぎゅっと抱きしめる優しさを持ち合わせていました。
父を失った家のキャプテンとなり、母や家族を支えてくと言う心意気を見せるリョータの兄は、なんと御年12歳。
え、まだランドセルしょってるんですかこのお兄ちゃん。
予告で見た時は中学生かと(それでも幼すぎる)と思っていたのにまだランドセル。
この時点で涙腺が緩んできます。
しかしバスケがうまく、優しく、頼もしかった兄は釣りに出かけたまま帰らぬ人になり、リョータは約束をした1on1はできなくなってしまいました。
リョータの母は夫と長男を失った沖縄から神奈川へ引っ越しました。
馴染めない学校、狭い団地、一緒に練習する相手もなくバスケットコートでドリブルをしているリョータの前に、一人の少年が現れました。
さわやかな少年はリョータと一緒に1on1をしてくれようとしたのですが、リョータはつい意地を張って帰ってしまいました。
その少年は三井寿。
原作の初登場はやべぇ不良として仲間を引き連れて、バスケ部をめちゃくちゃにしようと襲撃をかましますが、赤木に叩かれ、木暮に想いをぶつけられ、不良仲間の堀田から「バスケがしたいんじゃないか」と本心を諭されます。そしてやってきた恩師、安西先生に「バスケがしたいです……。」という姿はスラムダンクを読んだことなくても知っている人もいるくらいの名シーン。
中学生時代はMVPとしてキラキラしていた三井が、孤独なリョータの前に現れ、あの日の兄のように1on1に誘ってくれるという、原作でもこれがあったら当時の読者の情緒がえらいことになっていましたが、原作ではおそらく存在しない記憶。彩子から自分にリョータを重ねていたのではと言われて、リョータも「マジで……」と驚いている描写があります。
しかし映画では突然中学生の時に二人は出会っていたという記憶が生えてきたのです。
そしてリョータは高校生になりました。原作ではバスケ部マネージャーに一目惚れしてバスケ部に入ったのですが、そんなエピソードはなく、ごつくて怖い赤木先輩に叱咤されるリョータ姿がありました。
赤木先輩は全国制覇を目指す努力家で、彼はリョータの的確なパスを認めて、湘北には欠かせないメンバーだと確信していました。
しかし少しひねくれていたリョータはそれを素直に受け取れず、友人のヤス君に「赤木さんは期待しているんだよ」と励まされます。
そこでエンカウントしたのが、ロン毛の不良。
リョータが「この顔どっかで見たことある」と記憶を掘り起こすと出てきたのはあの日1on1に誘ってくれたキラキラとした少年。
原作を読んでいたから知っていたけど、あまりにも最悪な再会に観ているこっちは蒼白。
ここで三井寿が何故不良になったのかという説明はありません。そんなことは原作を読んで知ればいいのです。
しかし令和のコンプライアンスか、リョータはこの暴行事件の後に交通事故をおこして入院したという展開になっていました。
原作では三井の前歯をへし折ったのに、映画ではそのことにも触れられていません。そのためツイッターでは前歯は死守された派と前歯は差し歯に決まってるだろ派にわかれました。
映画がTHE FIRST SLAM DUNKの人には、なぜか三井がキラキラした中学生から、一度ロン毛の不良をはさみ、なぜか傷だらけの顔になりリョータと一緒にバスケ部にやってくるという流れになっています。
原作にはなかった過去が挟まれつつ、山王戦は展開されます。
原作を読んでいない人がついてこれているか、原作履修済の者は少し気になりますが、徐々にそんなことを気にする余裕がなくなります。
原作を読んでいるはずなのに、原作で見たやつだこれと思うのに、先の展開が読めずにハラハラするのです。
私はスポーツ観戦というのに今まで縁がなく、プロ野球も、ワールドカップも、オリンピックすらまったく興味がなくて、手に汗握って応援するということに縁がなかったのですが、湘北チームの健闘に息を呑みながら見入ってしまいました。
劇場の大きなスクリーンと音響のせいで、応援席にいるような気持ちになります。
私は堀田の横でタオルを振り回して叫んでいるのです。心の中では。
映画が終わった後は、疲れて足がふらつきました。
映画を観ていたのか、湘北のIHを観に行っていたのか。
声を出していないのに、さわやかな爽快感を感じながら劇場を後にしました。
観る前は「すごい酷評だな」と思ってしまいましたが、今はひたすら思います。
なるべく事前情報なし見てほしかったんだろうけど、もうちょっとプロモーションの仕方あったのでは……。と。
早い段階で「声優を一新しました」と出してくれれば、これほど燃えることもなかっただろうと……。
しかしすぎたことを言っても仕方がないので、今は思います。
他のキャラでも「THE FIRST SLAM DUNK」やってくれませんかね??