三十路からのデスマーチ

何気ない日常がもしかしたら誰かの役に立つかもしれない。

ハワイでの初めてのおつかい。

お恥ずかしい話、私はセンスが皆無です。

服もそうですが友達に贈り物をするのもいつも頭を悩ませます。気心の知れた仲なら、百万円をモチーフにしたメモをプレゼントしたりしますが、職場の方へのお土産物はいつも無難なクッキーやお饅頭にします。

しかし今から数年前、ハワイに行くことになりました。

ハワイのお土産といえば、丸い木の実やチョコレートで茶を濁すことのできる観光地のメッカですが、お世話になっている先輩からお土産を頼まれてしまいました。

その方の私に課したミッションは、知る人ぞ知るオシャレキッチン用品のウィリアムズ・ソノマで魚の鱗取りを買って帰ることでした。

お店のある場所は幸いなことに、ハワイに来たらここに行かないでどこに行くというほど旅行客がほぼ100パーセント行く、アラモアナショッピングセンター。場所が分かれば達成不可能なミッションもなんだかやれそうな気がしてきました。

 

さて、アラモアナ・ショッピングセンターのやや外れにありました。ウィリアムズ・ソノマ。

お店の前からはまるでレストランのように良い香りがしました。レストラン街じゃないはずなのにと不思議に思いながら一歩入ると、そこはニトリの中のように眩しく、上品なキッチン用品が飾られていました。

スパイスやパスタもあります。

そしてショールームのように綺麗なキッチンでは、笑顔でスタッフさんが料理していました。

料理していたのです。にこやかでトマトとひき肉のソースを作っていました。

これは予想外でした。

さて、それっぽい調理器具を探してみますが、包丁や皮むき器がありますが、ありません。

おしゃれな食器やおしゃれな何に使うのか分からない調理器具はあっても、先輩から見せてもらった写真にあった、魚の形をした調理器具はありません。あんなに特徴的だったから決して見落とすはずはないのに。

ここが日本なら、スタッフー!と泣きつきますが、スタッフー!と叫んでも鱗取りを探していますと日本語で言い。「アーハン?」と困ったように肩をすくめられるのが関の山。スマートフォンのまだない時代、私は電子辞書も持ち合わせていませんでした。

諦めるしかないのかと思いましたが、ここで勇気を出して品出しをしている店員さんに言いました。

自分の腕を乾布摩擦のように撫でるしぐさをしながら「フィッシュー、スキン。」とだけ言いました。

すると店員さんは困ったように肩をすくめて言いました。

「Sold out.」

伝わりました!!

しかしミッション達成ならず!!

いつ入荷するのかと聞けるほどのコミュニケーション能力も気力もなかった私は、皮むき器を買いました。

持ちやすいグリップとジャガイモの根もとりやすいスプーンのような先がついた優れものの皮むき器。

幸いなことに、先輩からはイイネ!をいただけました。

その先輩の笑顔を見て私は、ホノルル・クッキー・カンパニーでお茶を濁さなくて良かったと思いました。

 

 

 

 



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